キラーハウス狂騒曲 第67話 黒原虹華と静かな正月

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というわけで、火曜日なのでキラーハウスの更新です。二週間ぶり!
先週はがっつりやらかしましたが、さすがに二度目はありません。
コミケという大事件を超え、虹華たちの世界にもようやく正月がやってきました。半年ぐらいずれこんでますね。
今回はもう虹華のワンマンショーになっております。うっかりするとエピローグに見えなくもないですが、もうちょっと続きますよ。まぁエピローグみたいなものなんですけど。

ではでは、以下Moreより本編開始。
お楽しみいただければ幸いです。








 冬のコミックマーケットは、年末の三日間にかけて行われる。
 それを終えると、当然待っているのは新年である。
「虹華―、あんた正月だからっていつまで寝てんの。そろそろ起きたら?」
「うぇーい……」
 部屋の外からの母親の声に、渋々と起き上がってみた。
 自室の空気は冷たく、ぬくぬくとした布団から抜け出すのも一苦労だ。
 時計を見る。時計はすでに午前十時を回っていた――まあ、午前一時ぐらいに寝たことを考えればこんなもの……と言おうと思ったけど、普通に寝すぎか。
「はーっ……さむさむ」
 寝間着を身に付けたままリビングへ向かう。お父さんとお母さんが、既に外出の準備を済ませていた。
「……一応訊くけど」
「んー?」
「虹華、あんた初詣ついてこないわね?」
「え、うん、そうだけど……何急に?」
 我が家は……というか両親は、毎年元日に初詣に行く。当然私も昔はついて行っていたのだけれど、酷い人混みが嫌になってここ数年は一緒に行ってない。私が行くとすれば三、四日経ってからだ。
 だから今日も、毎年のようにだらけていたのだけれど――
「いや、あんた年末にコミックマーケット? に行ってたじゃない。あんな人混み行ったんだから、ちょっとは耐性でもついたのかと思って」
「あー……なるほど。でも何、一緒に行きたいの?」
「いや別に? 念のため訊いただけ。行かないならいいけど――泣き喚かれても困るしね」
「それいつの話してんの」
 かつてチビだったころの私は、人だらけの場所に行くとそれはそれは泣いて嫌がっていたらしい。遊園地でも泣いて帰りたがったとかで、人の多い場所に行こうとする度に母親からはこうからかわれる。
 私の人混み嫌いは筋金入りだったらしい。
 少し考えたけど、結局結論はいつも通りだった。
「今日はパス。今から準備してたら遅くなるでしょ?」
「それもそっか。じゃあ私ら初詣と買い物行ってくるから」
「んー、いってらっしゃー」
 両親を見送って机の上に目を向ける。ベーコンエッグが乗った皿にラップがされていた。一杯水を飲んでから、ベーコンエッグを少々レンジでチンして温める。その間に炊飯ジャーからご飯をよそい、少々物寂しいので引き出しから即席みそ汁を引っ張り出し、電気ケトルでお湯を沸かす。ご飯とベーコンエッグを先に机に運んで、キッチンへ戻る。お椀に即席みそ汁のもとをぶちまけて、湧いたお湯を注ぎ込む。
 それを机に持って行って、座って――がっかりする。
「箸忘れたぁ……」
 言いようのない虚脱感に襲われながらも、犬のように食べるわけにもいかないので再び取りに行った。何たる間抜け。年が明けてボケてるのだろうか。
 もそもそと、年が変わったとは思えないいつも通りの味のご飯を食べる。ベーコンエッグは醤油と唐辛子をかけて食べる派。ベーコンの脂と唐辛子ってなんでこんなに合うんだろ、といつも思いながら舌鼓を打つ。
「……静かだな……」
 そう思ったことにやや違和感を覚えながら、テレビをつける。どこもここもお正月特番みたいな感じだった――副男だったり百貨店の福袋争奪戦だったり初日の出だったり。
 ぼうっと眺めながら、さっきの違和感の正体に思い当たる。
「……一人ぼっちなのは、久しぶりなのか」
 なんだかんだ言って、ここ数か月は毎日、ほとんど周りに人がいた。『キラーハウス』に入る前は、一人ぼっちが普通だったのに。
 友達が少なかったから、休日は家で一人、ラノベを読み漁って終えることも少なくなかった。沈黙がまるっきり苦ではなかった。なんなら沈黙は友達だった。
 だけど今は、沈黙がなんとなく気まずい。その中でぼうっとしているのが落ち着かない。
 あのサークルが私に与えた変化は、思った以上に大きいのかもしれない。
「……腑抜けちゃったもんだなぁ、黒原虹華も」
 若干百合気味で、孤独で、ひねくれ者で。面倒くさい女のスタンダードを地で行っていた私が、今では沈黙に嫌われる程度に友人が増え、挙句の果てに恋までしている。
 こんなのまるで、普通の女の子だ。
「……いや、百合気味でひねくれ者で面倒くさいあたりは変わってないか……」
 朝食の洗い物を済ませて、いったん自室へ。唯一の暖房器具であるヒーターを付けてから、歯磨き・洗顔という最低限のルーティンワークを済ませて、温まった部屋へ戻る。私が抜けたことですっかり冷めた布団に体を投げ出し、ふぅ、と一息つく。
「……初詣ねぇ……」
 もしも行くとすれば。
 夕くんか、あるいは霧――いや、たぶんサークルのメンバーからなら、誘われれば行くだろう、とは思う。彼ら彼女らとの付き合いは、思っていたより全然楽しいから。
 どれほど人混みを嫌っていても、メンバーの誰かと一緒ならそんなに苦ではないはずだ。
 でなければ、コミックマーケットであんなに活動できるわけがないのだ。あの時だってほとんど一人だったけど、会場のどこかで、みんなが頑張ってる。そう思えば、人混みを掻き分ける程度の元気も出たから。
 一人ではないことは、とてもとても、心強いと思っている。
 私がそんなことを考えるなんて、一年前は夢にも見なかったけど。
 人生、分かんないもんだなぁ。
 ……さて、どうしようか。思ったより暇になってしまった。
「……よしっ」
 一念発起し、前々から計画していたことを実行に移す。体を持ち上げ、机に向かう。
 そしてほぼ手つかずの冬休みの課題を押し退け、机の上にまっさらなルーズリーフを広げた。ペンを持つ。
 ガリガリガリ、と驚くような勢いで手が動き始めた。
 あのコミックマーケットを経験して以降、私はなんとなく、気がついたら物語を考えるようになっていた。これもサークルが私にもたらした大きな変化だろう。
 サークルのは二次創作ではあったけど、今度は私のオリジナル。
まだ取り留めもなく、溢れるアイディアを書き連ねているだけだけれど、もしもこれが形になってきたら、サークル用としてみんなに見てもらってもいいし、賞に応募したっていい。
とはいえ、ときわさんのように親に啖呵を切る覚悟はないし、無暗にことを荒立てるつもりもない。
だから私は親に知られず、こっそりと小説家を目指すことを決めた。大学に行って、普通に就職して。リスクを最小限に抑えたその傍らで、賞に投稿したり、今の時代なら無料サイトで公開するって手もある。そして何らかの形でデビューできた時に、初めて親に話すのだ。
――私にも、かつて未来は無限に広がっていた。私でさえ、きっとなんにでもなれる時代が確かにあった。
しかしそれが過去になった今だからこそ、こうも思う。私たちは何にでもなれる可能性と引き換えに、覚悟さえあれば、行きたい場所へ行く権利を得たのだと。
そして、行きたい場所へ行く方法は、今の時代いくらでも転がっている。
ましてや、今から始めるのなら、きっと決して遅くはないから。
「……なんだろうな、この感じ」
 やりたいことが定まった。そして、物語を考えることが楽しくて仕方ない。
 沸々と、胸の内側から湧き上がるものに笑いがこみあげてくる。
「よーし、やってやんぞーっ!」
 根拠もないけど、なんとなくうまくいく気しかしなくて、私はらしくもなく叫んでみた。
『キラーハウス』での騒がしい日々が、私に与えてくれたものを噛みしめながら。

              (続く)
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by akr-hgrs | 2018-05-29 21:34 | Comments(0)

物書きの蝉、もとい物書きの日暮晶が綴る、雑な日記のようなもの(予定) ご連絡等ございましたら q65e3r@hotmail.co.jp までどうぞ
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