キラーハウス狂騒曲 第62話 中峯隼太郎の想定外

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というわけでこんばんは、火曜日なのでキラーハウスの更新です。
危うく忘れるところだった……思い出してよかった……。

ころころと語り部の変わるコミケ編、今回はサークルの大黒柱にして何でも屋、中峯隼太郎くんでお送りします。
準備万端で挑んだコミックマーケット。しかし、その洗礼は想定外のもので――? 的なお話です。

……他に書かなきゃなんないようなことも特にないのと、やたらめったら眠いので今日はこのあたりにしておきますか。
あ、しいて変わったことがあったとすれば、ブログにコメントが三件も届いたことですかね。
何かの感想かしら……と恐怖半分、ワクワク半分でコメントをひらくと、そこには!

……三件全部、なんかよくわかんないアドレスみたいのだった……。
クリックするのも怖いので放置してますが、結構がっかりです。ふて寝します。

ではでは、以下Moreより本編開始。
お楽しみいただければ幸いです。










 ――正直、コミケというものを舐めていたのかもしれない。
 俺……中峯隼太郎は、そう痛感していた。
 まさか。
「――まさかここまで売れないとはなぁ」
 俺の心を読んだかのように、はっはっは、と笑い混じりにヘッドは言うけど、さすがにどこか乾いていた。
 今回のコミックマーケットが始まってから一時間ほどが経つが、『キラーハウス』渾身にして最高傑作ともいうべき今回の同人誌――現状売上げ、十冊。
 ありていに言って、暇だった。
 コミケに来ている人たちが少ないのかというと、決してそんなことはない。
 ブースの内側から眺めるコミックマーケットの狂騒っぷりは凄まじいものだ。都会でもそうそうお目にかからないような人数が一か所に集結して、しかもあちらこちらへと動き続けているのだ。飲まれてしまえば逃れ得ない、止まることのない海流のように――というと、少し表現が綺麗すぎるかな……。
 しかしそんな人の流れの中にあって、うちのサークルの前は、なんというか……泳ぎ疲れた魚が休憩を取るためのスペースみたいになっていた。並んでいる人がいないからだろうな。一旦足を止めて戦利品を鞄へしまったり、次の目的地の場所を確認したりしている人たちを見て、何とも言えない気分になったのは確かだ。
 そして彼ら彼女らはこちらへ目を向けることもなく、次の場所へ向かう準備を終えたら再び流れの中に身を投じる。
 そうして人がいなくなるたび、ブースの中から漏れ出るのはため息だった。
「……見向きもしないでやんの。どんだけ眼中にないんだろ」
「後ろめたさもあるんじゃないですか?」
 俺のぼやきに、苦笑しつつ白砂さんが答えてくる。彼女にはコスプレまでしてもらってるのに申し訳ない限りだ。
「まあ、コンビニで何も買わずに駐車だけするみたいなもんだもんな」
「でも、サンプルぐらい見てくれてもいいとは思いますけどね」
「その方がハードル高いんじゃないか? この場だと、サンプル見ると買わなきゃいけないみたいな強迫観念めいたものを勝手に感じるのかもしれないし」
「あー、それちょっとわかります。スーパーとかデパートとかの食品売り場で、試食だけして買わないみたいなやつですもんね」
「そうか? 俺別に食うだけ食って離れたりするけど」
「「無神経は黙っててください」」
 俺と白砂さんはヘッドへ同時にそんな言葉を叩きつけた。
「……人が多かったら、サンプル見ても流れで抜けることだってしやすいだろうけど、うちは特に人いないからな。全員の視線が集中するから、より手に取りづらいのかもしれない」
「じゃあ全員目ぇ瞑ってればいいんじゃね?」
「それでどうやって対応するのか説明できるならそれでもいいんですけどね……ところで」
 ヘッドの戯言に切り返しつつも、ブースの中でもっとも虚ろな目をしている二人へ話を向ける。
「……そっちの二人も話に加わってもらえませんかね。早々にお通夜ムード出されちゃなおさら人が寄り付かないんですけど」
「……いくらなんでも……これは少し酷過ぎない……? 私は思い上がっていたの……?」
「ぼ、ぼ、僕のせい……? 僕の実力が足りないから……?」
 意気消沈と言った様子の輪堂さん、そして青い顔でガタガタ震える少女――に見える少年、夕の二人は俺の言葉なんて聞いちゃいないらしい。
「まったく……分かりやすすぎるだろう、二人とも」
「天音さん、今回は自信があるとおっしゃってましたからねぇ」
 にっこにこと笑いながら言ったのは、『ブラッディ・フール』に登場するメインヒロイン・茜のコスプレをした、敵サークルのメンバーでありながら黒原さんの友達(というと黒原さんは怒るが)でもある、青海椎さんだ。ウィッグまでつけているが、違和感というものがほとんど感じられない、ちょっと引くぐらいの完成度だ。
「確かに、自信に見合う仕上がりではあるよな」
 設営段階で見本にもらった『シャイニーリング』の同人誌にはさっと目を通してあるが――ぶっちゃけ、完成度という意味ではウチのそれよりも高く感じた。
 ほとんどの同人誌がそうであるように、焦点を当てるキャラを一人に絞ったタイプのもの。主人公とのいちゃラブを練り込みつつも、原作に忠実に、しかし原作にはないエピソードを、散りばめた伏線を綺麗に回収する形で描き切っている。もはや一つのスピンオフか何かかと錯覚するほどだ。
 ただ、タイプ自体うちの同人誌とは方向性が違うから、どっちが上とは簡単には言えないけれど。シンプルないちゃつく奴が見たいのなら『キラーハウス』、割としっかりした物語が見たいのなら『シャイニーリング』という感じかな……。
「天音さん、そんなに落ち込まなくとも。一時間も経った? 否、まだ一時間しか経っていないんですよ? お客さんの立場からすれば、後回しにすると売り切れ必至の人気サークルの同人誌を手に入れるために並んだり、走り回ったりしているはずですよ」
 すっかり気落ちしている輪堂さんの肩に手を置きながら、慰めるようにそんなことを言う。そして意外にも、ヘッドがその先を継いだ。
「つまり、俺らみたいな無名サークルの勝負は、後半ってことだな」
「ええ、おそらくは――大体の目的を果たしたお客さんたちが、ダークホースや掘り出し物を探して彷徨い歩き始める頃合い。そこでどれだけ同人誌を捌けるかが、わたくしたちの勝負です」
「……確かにそうだな。夕、だからお前も気落ちするなよ」
「はっ、はい!」
 俺が言うと、夕は背筋を伸ばして返事をした。
「まあ、逆に言えばしばらくは暇な状況が続くって意味でもあるから――今のうちに英気を養っとけばいいんじゃないか? ヘッド、今のうちに交代で食事でもとっときます?」
「そうだな。持ってきたおにぎりがあるし、順番に食おうぜ」
 その言葉を受け、お客さんに背を向ける体勢で、持ち込んだ荷物の中からおにぎりを探していると――
「――うわっ、なにこれ。全然売れてないじゃん」
 聞き覚えのある声が飛んできた。
 振り向くと、ちんまい金髪の同人誌お使い班――こと、俺の彼女でもある灰森ときわが、やっほ~、と手を振りながら机の向こうに立っていた。
「ときわ。様子でも見に来たのか?」
「そんなとこ~。流石に売り切れてはないと思ってたけど、思った以上に売れてないね~」
 ときわの容赦ない言葉に夕と輪堂さんが仰け反ったが、お構いなしにときわはここへ寄ったもう一つの用件を口にする。
「ま、ちょうどよかったかな。ね~、じゅんたくん。うちの同人誌、一冊もらってってもいい?」
「ん? そりゃまたどうして」
「ちょっと想定外のことがあったからね……ま、お近づきの自己紹介代わりに一冊ぐらいあげとこうかなと思って」
「……? あげるったって、一体誰に」
「こちらさんだね~」
 ときわがリュックの中から取り出した一冊の同人誌。それは――
「ぶっ」
「なっ」
「えぇぇっ!?」
「おおっ!」
「はぁっ!?」
「あらまぁ」
 ――ブースの中のメンバーが各々、赤くなったり驚いたりと反応を見せたが、仕方のないことだろう。
 いきなり18禁の同人誌なんか取り出されて平然と渡されれば、それ相応の反応をせざるを得ないのだから。
「な、な、何を取り出してるんだよ、ときわ!」
「文句ならヘッドに言ってよ」
「は!? ヘッド、まさか18禁の同人誌をときわに頼んだんですか!? 女子に、ましてや俺の彼女に18禁頼むとか何考えてんだあんた!」
「し、仕方ないだろ! 俺はここから動けないんだから!」
「ちょっとライ、どういうこと!? 昔からエロが好きだって言うのは知ってるけどそこまでする普通!?」
「ほ、ほ、ほんとよ! あんた馬鹿じゃないの!?」
「え、えぇっと……これってもしかして、この同人誌の作者さんに僕らの同人誌を渡すってことですか……?」
 俺やヘッドに惚れてる女子二人がヘッドに食って掛かってる間に、うぶな少女のように顔を真っ赤にした夕が、消え入るような声でときわに訊ねる。
「そんな感じ~。買っただけならともかく、紆余曲折あってサインまでもらっちゃってるからさ~」
「えっ。……おぉっ、マジだ! すげえー!」
「「ちょっと聞いてるの!?」」
 がなる女子二人をよそに、表紙を開いたところに書かれた作者さんの……胡椒ミルさんのサインを見て、ヘッドが驚愕していた。
「……個人的にはそのサインをもらうに至る事態の話もちょっと気になるけどな……まあ、そういうことならいいよ。持っていきな」
「ん~、ありがとね~」
「あ、ときわ」
「ん~?」
 振り返った小さな彼女に、自然に声が出た。
「――気を付けてな」
「……へっへ~」
 にへら、と笑ったときわは、ひらひらと手を振った。
「そうするよ~。そっちも頑張ってね~」
 そうしてときわは、再び人の波の中へとその体を躍らせた。
 彼女を見送った後、さて、と俺はブースの中を向き直る。
「大井手、あんたにはデリカシーってものが足りないのよ!」
「昔っからそういうとこあるもんね。あたしが行くって分かってるくせにエロ本を特に片付けることもなく置きっぱなしにしといたりしてさー」
「「もう、もっとしっかりして!」」
 一サークルの代表が、正座姿勢で幼馴染と敵対サークルの代表に息ピッタリに説教されるという滑稽な光景を見て、一つ嘆息する。
 二人の気持ちも分からないではないけど――というか、正直俺もその説教に交じりたいところではあったけど、流石にこのままだと寄り付く客も寄り付かない。
 若干渋々ながらも、俺は二人を止めに入るのだった。
 
                    (続く)
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by akr-hgrs | 2018-04-17 22:04 | Comments(0)

物書きの蝉、もとい物書きの日暮晶が綴る、雑な日記のようなもの(予定) ご連絡等ございましたら q65e3r@hotmail.co.jp までどうぞ
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