2017年 03月 14日
キラーハウス狂騒曲 第15話 黒原虹華の疑似デート(表)
というわけでホワイトデーでも通常更新。
どうでもいいんですけどホワイトデーってなんでホワイトなんですかね。チョコが黒いから、逆の色って意味だけなんでしょうか。
それはさておき今回のお話、自分で書いておいてなんですが、なにやらややこしいことになりそうな雰囲気です。
でも恋人同士ではない男女のペアは書いてて意外と楽しいのでどんどんやっていこうと思います。
では、以下Moreより本編開始。
お楽しみいただければ幸いです。
本日の天気は、晴天。じりじりと地上を焼き焦がすような日光を、私は日陰に入って避けていた。どうやら太陽は、まだまだ夏を続ける気満々らしい。その調子で夏休みも続いてくれないものだろうか。
「あー、ヘッド。こっちこっち」
――三日後、いつもの集会所から駅二つほど離れた場所にある町。
歩けば割と何でもある場所で、学生同士の手軽なデートや打ち上げなんかにはもってこいの場所である。
その待ち合わせ場所として有名な駅前の広場で、私は今日のデート相手に手を振った。
それに気づいたヘッドが、やや早足に私のところへやってくる。
「おう、悪いな。待たせたか?」
そういうヘッドの格好は、ほぼ普段通りだった。カーゴパンツに半袖のTシャツと、ペンダント。飾り気のない格好だなぁとは思うものの、まぁ、私も別に着飾ってきているわけではないので文句は言えない。
七分丈のパンツに半袖のシャツと、キャスケット帽。ぶっちゃけヘッドとほぼ変わらない。女らしさを極力抜いた形だ。
それはそれとして、私はヘッドに返事する。
「ええ、だいぶ。具体的には十五分ほど」
「……そこは普通『私も今きたとこです』とか言うもんじゃないか?」
「デートじゃないんですからそんな気なんて遣いませんよ。まぁ気にはしてませんけど、本命の女の子とのデートでは遅刻しないよう気をつけてくださいよ? さ、行きましょうか」
「行くのはいいけど、どこいくんだ?」
「とりあえず、ご飯行きましょ。ちょっと早い気もしますけど、私、人混み嫌いなんで」
「了解。どこ行くよ?」
「ハンバーガーかラーメン、次点でうどんですかね」
「次点のチョイスが渋いな……気に入った、うどんにしようぜ」
「らじゃー」
……ん?
なにやら視線を感じたような気がして、振り返る。
「ん? どうした、黒原」
「いえ、気のせいだったみたいです。ところで、何うどん食べます?」
「熱いのならきつねうどん一択なんだが、今は夏だからな……」
「あー、分かりますー。きつね美味しいですよね」
他愛もない話をしながら、私は今日の疑似デートの目的を頭の中で反芻する。
――ヘッドがどういう人物かを見極める、という目的を!
――霧が片思いしている相手、ヘッドこと大井手来斗さん。
大学二年生、二十歳。
同人サークル『キラーハウス』の発起人にして代表。
趣味はエロコメ。
ぐらいしか、私は彼のことを知らないのである。
霧の親友たる私には、彼が本当に霧に相応しい人物かどうかを見極める必要がある!
……まぁ、普段の様子からして別に何が何でもアウトってことはないだろうし、霧本人にそんなこと言ったら余計なお世話とか言われそうだけど。
なので、これはまぁ、私の自己満足である。
「――そういえば、ヘッドって霧と幼馴染だったんですね」
注文したざるうどんを箸でつまみ、真っ黒なつゆに浸け込みながら、私はヘッドにそう切り出した。
「おう、そうだぞ? 言ってなかったっけか」
対するヘッドが食べているのはぶっかけうどん。どんぶりに冷たい出汁や天かすなんかを全部ぶち込んで食べる豪快なやつだ。真っ赤になっているのは、さっき卓上の七味唐辛子もしこたまぶっかけていたから。……めっちゃ辛そうなんですけど。
「霧に聞いて目玉飛び出るほどびっくりしましたよ。けどまぁ、霧が同人サークルにいるのには納得しました」
「あぁ、こっち側って感じの空気じゃないもんな、あいつの雰囲気っつーのか」
「ヘッドもまぁまぁグレーゾーンですけどね」
体格いいし、結構体も引き締まってるし。初対面がサークルの集会場でなければ、青年スポーツマンか何かだと思っていただろう。
つゆに浸けていたうどんを引き上げ、口に運ぶ。噛めるものなら噛んでみろと言わんばかりの強靭な弾力と、かつお出汁ベースの濃いめのつゆの味に舌鼓を打ちながら、じぃっとヘッドのうどんを眺める。
「……あの、それ辛くないんですか? 薬味の領分を思いっきり超えてると思うんですけど」
「ああ、普通にうまいぞ? 一口食うか?」
「……では一口だけ」
差し出されたどんぶりから、少しふやけた天かすや、白い刻みネギと一緒に、真っ赤なうどんを二本ほど摘み上げる。
……ええい、ままよ!
私は一息にうどんをすすりばふぉっ!
「えぇっほえほっ! ごほっ、げふっぅえほっ! にゃ、にゃんれすかほれぇ!」
「お、おいおい、大丈夫か?」
のどがっ……肺がっ……!
自分のお盆の上にすすったうどんを叩きつけながら、私は盛大に噎せた。
これ……辛すぎるでしょ……! 口がひりひりする……!
「っつぁー……けほっ、酷い目に遭った。ヘッド、よくこんなもの食べられますね」
「そんなに辛かったか? 黒原は甘党かよ。ほれ」
笑いながらポケットティッシュを差し出すヘッド。ありがたく受け取りながら、私は返事をする。
「どっちかっていうと辛党ですよ。でも私、ほどほど派なので。ここまでやらかすことはさすがにないです」
「やらかすて。あぁ、でも確かに、霧にも『お前は味覚がぶっ壊れてる』的なことを言われたことがあるな」
…………。
「それってどういう状況でですか?」
「あぁ、たまたま霧の手料理を食う時があってな」
「へえ、まるで恋人みたいですね」
「いやいや、別に俺ら付き合ってるわけじゃないって。だれか本命がいるみたいだしな」
……ん?
「というと?」
「いや、なんか料理の味見してくれって言ってたまーに付き合わされるんだよ。男子の意見がほしいからってよ。誰か、絶対に失敗したくない相手のために練習してんだろうと思うと、意外とあいつも健気だよなー」
……うっわぁ。
霧、そんなことまでしてたわけ?
というか、ヘッドも鈍いなぁ……。それが自分のためだと知ったらどんな反応をするのやら。
「ただ一回めっちゃ怒られたことがあったんだよな。ありゃたしか……麻婆豆腐の時だったか」
「辛党向けのメニューですね」
「そうそう。で、あいつは『結構辛めにしたんだけどどうかな?』って言ってよこしてきたわけだけど、ちょっと辛さが足りないと思って、唐辛子をぶち込んで食べたらちょうどよくなったわけだ」
「…………」
「けど、そしたらあいつめっちゃ怒っちまってなー。辛さが足りないってアドバイスしたら麻婆頭からぶっかけられた」
「……うわぁ……」
きっと、今の感情は露骨に顔に出ているんだろうなぁ。
どっちに引いているのかと言えば、7対3の割合でヘッドに引いてる。
そりゃまぁ、意中の相手のために頑張って作った料理なのに、唐辛子かければうまかったなんて言われたら霧でも怒るだろう。
極論、唐辛子食わせておけばいいという話になりかねないのだから。
これは減点ですよ減点。
……まぁ、それで頭に麻婆豆腐をぶちまける霧も霧だが。あの霧にもそういう一面があるんだなぁと思うと、中々微笑ましい。
「あ、そうだ。黒原、お前のうどんも少しもらっていいか?」
「ああ、どうぞ。私ももらってますからね……吐き出したけど」
つゆの入った器を手渡す。私のざるうどんを食べ、ヘッドはぽつりと呟く。
「ん、普通にうまいな。唐辛子を入れればもっとうまくなると思うが」
「私のつゆに唐辛子入れたらぶっ飛ばしますからね」
唐辛子に手を伸ばしかけていたヘッドに釘を差した。
――そしてうどんを食べ終え、お会計へ。
「お会計はご一緒でよろしいですか?」
店員さんの問いかけに、別々で、と返そうとした私より先に、ヘッドが口を開く。
「ああ、一緒でお願いします」
おや、と驚き、私は彼を見やる。
「いいんですか?」
「いいぞ。黒原から誘われたのは初めてだしな。サークルメンバーにはこれでも優しいんだぜ?」
「……では、お言葉に甘えまして。ごちそうさまです」
……仕方ない、さっきの減点は帳消しにして差し上げましょう。
――その後、私たちはアニメ・漫画の専門店へやってきていた。
……まぁ、要するに、メイトである。
お目当ては新刊。私は主にラノベ、ヘッドは漫画を見て回ろう――という話になっていたのだけれど。
予想外の自体が起こった。
「おやおや? そこにいらっしゃるのは虹華さんではありませんか!?」
「うげぇ……」
店に入る直前に、鉢合わせてしまったのである。
『コミックラフト』で知り合ってしまった魚の目フェチこと、にっこにこの青海椎に。
さらに問題はそれだけにとどまらない。
「あんた、なんでこんなところに……」
「こんなところとはご挨拶ですねぇ。ただの偶然ですよ――運命めいたものを感じますねぇ! 私服姿もまた麗しい! 写真一枚よろしいですか!?」
「そんなもん感じなくていいわ。あとスマホを構えてんじゃないわよ」
「残念ですー。あ、でもここへ来た理由は単純に、うちの代表と待ち合わせているからなんですよー」
「……そっちの代表ってたしか――」
言い終える前に。
どさっ、と誰かが荷物を取り落とすような音がした。
振り向く。
そこにいたのは、青海椎が所属する同人サークル『シャイニーリング』の代表――赤いポニテが特徴の、輪堂天音さんだった。
「おう、輪堂。お前まで来てたのか」
流石のヘッドも『コミックラフト』の時とは違い、いきなり掴みかかるようなことはなかったけれど、どうも輪堂さんの様子がおかしい。何にそんなに驚いているのか、妙に顔が青ざめているような――?
「……ちょっと、大井手」
どことなく引きつったような顔で、震える指で私を指して――え、私?
「……その女の子、なに?」
…………んん?
(続く)