キラーハウス狂騒曲 第5話 黒原虹華の作戦会議

 登場人物紹介

○黒原 虹華(くろはら にじか) 女 17歳
 
 主人公兼語り部。ライトノベルの偏読家で色々と業の深い女子高生。

○白砂 霧 (しろすな きり) 女 16歳

 虹華のクラスメイト。身長も胸も懐も大きい社交的少女。

○小野木 夕(おのぎ ゆう) 男 16歳
 
 虹華を男らしさの師匠と仰ぐ、女子より可愛い男の子。

○大井手 来斗(おおいで らいと) 男 20歳

 同人サークル『キラーハウス』のヘッド。

○中峯 隼太郎(なかみね じゅんたろう) 男 18歳

 特筆すべき点のない、サークルにおける優秀な雑用係。

○灰森 ときわ(はいもり) 女 19歳

 見た目年齢マイナス6歳。人形のように可愛らしい大学一年生。



 さて、三が日だろうが変わらず更新です。年も明けて皆さまいかがお過ごしでしょうか。
 毎度馬鹿馬鹿しいお話を届けてますが、今回ちょっといちゃいちゃしてます。誰と誰がとは言いませんが。ふふふ。
 というわけで、以下Moreより本編開始。
 お楽しみいただければ幸いです。





「ぐぅぉおおおおおおお……」

 いびきではない。むしろ快眠からは程遠い状況だ。

自室で呻きながら、ベッドの上で私は頭を抱えていた。

「なんであんなお願いを受諾しちゃったの、私ぃ……」

 ――私が同人サークル『キラーハウス』へ入会することを決めたその日の夜。

 小野木くんのお願いをああも軽々と承諾してしまったことを、私は数時間たった今でも悔いていた――思いっきり雰囲気に流された。なんでああも容易く……

「……うひぇひぇひぇひぇひぇ」

 流される原因となった小野木くんに握られた両手の感触、温かさを思い出すと口から変な笑いが漏れてしまう。

 しかし直後の言葉を思い出して、

「ぐぅぉおおおおおおお……」

 いびきのような呻きが、再び真夜中の静寂を這いずり回る。

 ――『男らしくなりたい』。

 端的に言えば小野木くんのお願いはそれである――しかし、外見においても内面においても、『今の』小野木くんが好みにドンピシャであるため、私的にはそのお願いを叶えるのは好ましい話ではない。

 むしろ今のまま彼を凍結したいぐらいだ。

 とまぁ、そんな戯言はさておき――承諾してしまった以上は、何かしら手を打たないとまずいだろう。「口だけで何もしてくれない」なんて小野木くんに思われてしまっては本末転倒だ……というか、立ち直れる気がしない。

 とはいえ、現状彼から見た私の好感度は決して低くはないはずだ。

 むしろ、男らしくなれる案を積極的に出せば、イコールでそれは彼との距離を縮めることにもなりうる――これは、理想を破壊してしまうピンチでありながら、理想を手に入れるための、この上ない千載一遇のチャンスでもある。

 つまり、一見男らしくなれそうな案に仕上げつつ、内情は実はあまり変化がないようにする、もしくは私が得をするという案を練り上げなければならないということ……!

 なかなかの難易度の高さだ……だがいいだろう、やってやろうじゃないか。

 コミュ障で、陰気で、根暗な私でも――一生分の恋心を使い果たせば、勝負ぐらいはできるでしょう?

「よーし、やったるぞー!」

「さっきからうるっさいわよ虹華、あんた今何時だと思ってんの!」

「……ごめん」

 ベッドの上で奮起した瞬間、母親から扉越しに怒鳴られて、ふと思う。

 ……年頃の女の子の恋愛って、こんなだったっけ?

 

 まぁ、彼を凍結できないということは、成長も止められないということで――ある程度の変化は受け入れてしかるべきであるのだけれど。

「そのある程度が問題なんだよねぇ。どう思う、霧?」

「それをあたしに訊いてどうすんのさ……言っとくけど望むような答えなんて返せないよ」

 寝不足の目をこすりながらの私の言葉に、霧が呆れたように言う。

 翌日、私が訪れたのは霧の家。学校最寄りの駅から15分ほど歩いた場所にある。定期のおかげで、区間限定とはいえ電車は使い放題だ。ちなみに私の家から最寄りの駅は、学校最寄りから三つ分離れている。

 霧の部屋は綺麗に整頓されている。ライトノベルが本棚から溢れてる私のごちゃついた部屋とは大違いだ。

 ベッドに、勉強机と、普段は足を畳んでしまってある来客用の小さなちゃぶ台。その上で氷の入ったコップを弄びながら、霧は少なからず意外そうに言う。

「っていうか、やっぱそうなんだ? 虹華にしてはぐいぐいいくなぁと思ってたけど、あの虹華が三次元の小野木くんに一目ぼれなんてね」

「その言い方はだいぶこっちに染まってきてますぜ、きりりんさんや」

「染めてくれちゃったのはだれだったかなー」

 ……むぐう。そういう言い方をしてくるか。

 頬杖をつき、にまにまとした笑みを向けてくる霧に、そこはかとなく色気を感じる。自分の部屋の中だからか知らないけど、今日の霧は昨日よりもさらに薄着だ。昨日穿いていたのとは別のショートパンツ、そしてタンクトップ。スポーティーな恰好でありながらそこかしこから覗く、霧の引き締まりつつも柔らかさを感じさせる肉がいちいち私の危ない部分を刺激する。

 特に同世代にしてはずいぶんと底の深い胸の谷間と、肩からちょっとずれて見えてるブラの紐が。

 七分丈のジーンズにTシャツという、色気もへったくれもない私の恰好とは大違いだ。

 それにしてもこいつめ、同性だからって油断してるな? 悪戯の一つでもくれてやろうかと考えていると……

「あ、そうだ。虹華、正座して」

「え? な、なんでいきなり?」

「いいから、ほらほら」

 霧に促されて、訳も分からず正座する。なぜだ。私は説教されるようなことは……考えてはいても、表には出していないはず。

 そうして説教されるような心当たりを探しているうちに、ぽす、と太ももの上に何かが乗っかってきた。

「……霧、これはどういう状況で?」

「ひざまくら」

 寝転んだ霧が、私を見上げながら言う。簡潔にお答えいただきありがとう。でもそういうことじゃねぇんだよ。

「昨日の車の中で、虹華は私のひざまくらを堪能してたでしょ? だからこれはそのお返し。やられたらやり返すのがあたしだからね」

「あぁ……なるほどね」

 そういうことか、と私も頷く。

 私と霧の中での決まりごとのようなものだ――目には目を、歯には歯を、ひざまくらにはひざまくらを。

 ……字面にすると酷く牧歌的だが。

「……まったく、霧はしょうがない甘えんぼだなぁ」

 霧の髪を、手で漉くように撫でる。朝から家にいたせいか、汗をかいた髪の感触ではない。指の間をするりと抜けていくそれは、掬い上げた清流の水のようにさらさらしていた。

「最初に甘えてきたのはそっちでしょぉ?」

 凛々しい顔立ちで、どこか拗ねたような表情を浮かべる霧が可愛らしくてときめいちゃう。普段とのギャップがすごい。これはいかん。たまらず目を逸らす。

 しかし、逸らした先には私の煩悩を刺激してやまないお山がそびえ立っていた。

 上を向いても形の崩れない、圧倒的なボリューム感。クーラーがついているこの部屋でも多少は暑いのか、若干汗ばんだトンネルに指を入れて開通させてみたくなる。

 が、さすがにそれは自重する。そんなことをしたらきっともう戻れない。別世界への何かと別のものが開通しちゃう。具体的には処(以下自重)

 ――と、眼前で持ち上がった腕を見て、霧の狙いを悟った私は慌てて前屈みになっていた頭を後ろへずらす。

「あー、なんで逃げちゃうのさー。虹華が撫でたんだからあたしにも撫でさせてよー」

「い、いや……だってさ……」

 もごもご、と少し口ごもる。私とて、躊躇するときぐらいあるのだ。

 だって……

「その……ここに来るまでに汗かいちゃってるから……ベタベタしてると悪いし……」

「…………」

 霧が、私をきょとんとした顔で見上げてくる。

「……な、何?」

「……いやいや、なるほどねーと思っただけ」

 何がなるほどなのか……? と私が油断した隙をついて、苦笑した霧が突然がばっと腕を広げる。頭を抱えられた私は逃げられもせず、頭を撫でる霧の手を振りほどくこともできなかった。

「ちょっ、き、霧……っ」

 というか、ちょ、待って。キスできそうなほどに顔が近いけどそれどころじゃない。

「ん、ん、ん……別にベタベタなんてしてないじゃん。大丈夫だよ」

 わしゃわしゃと私の髪をまさぐりながら、霧は言う。

「き、きり……っ」

「夏場で暑いのは当たり前で、汗をかくのも当然。あたし、そんな細かいこと気にする奴じゃないよ」

 ……いや、あのね、きりりんさんや。いいセリフ言ってくれてるところ悪いんだけど……。

「ご、ごめん……体いたい……」

「……あ」

 正座で、頭を下から抱きかかえられる体勢というのは、体の硬い私にはなかなかに辛い体勢なのである。

「あははっ、ごめんごめん」

 パッと離されたその瞬間、しなっていた竹のように体が戻る。

「あたたた……霧は強引なんだってば」

「仕方ないじゃん、逃げるんだもん」

 体を起こした霧が、言い訳のように口にする。

「でも、そうだね……うんっ」

 そのまま立ち上がった霧が、いいことを思いついたとばかりに頷く。

「じゃあ、これから外にご飯でも食べに行こうよ。作戦会議の続きはそこでっていうのはどう? 二人とも汗かいちゃえば、あんまり気にならないでしょ?」

「それはそれでまた別の問題が生じる気もするけど……まぁいいか。うん、行こう」

 ちょっと気を遣わせちゃったかなと思いつつも、霧が友達でよかったと心底思う。

 本当に、いい奴だから。

「んじゃちょっと待ってて、着替えるから」

 そう言って、私が何を思う間もなく、霧はタンクトップをぐいっと脱いだ。

 ……おぉう。

 その後は桃源郷も裸足で逃げだす素晴らしい光景が私の目の前に広がっていたのだけれど、素晴らしすぎて言葉に表すこともできなかった。

 いやぁ……。

 霧が友達で本当に良かったと、私は心底思うのだった。

 鼻血が噴き出しそうになるのを堪えながら。

 なお、作戦会議では大した案が出なかった。

                        (続く)


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by akr-hgrs | 2017-01-03 14:05 | Comments(0)

物書きの蝉、もとい物書きの日暮晶が綴る、雑な日記のようなもの(予定) ご連絡等ございましたら q65e3r@hotmail.co.jp までどうぞ
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